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東京高等裁判所 平成7年(行ケ)117号 判決 1995年12月21日

静岡県田方郡大仁町大仁570番地

原告

株式会社テック

同代表者代表取締役

久保光生

同訴訟代理人弁護士

大村金次郎

田口誠吾

同訴訟代理人弁理士

樺澤襄

島宗正見

樺澤聡

東京都大田区南蒲田2丁目16番46号

被告

株式会社トキメック

同代表者代表取締役

森田啓二郎

同訴訟代理人弁理士

萼経夫

館石光雄

村越祐輔

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  原告

「特許庁が平成5年審判第1652号事件について平成7年3月8日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

2  被告

主文と同旨の判決

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

被告は、「トキオテック」の片仮名文字と「TOKIOTEC」の欧文字とを上下二段に横書きしてなり、指定商品を商標法施行令(平成3年政令第299号による改正前のもの)別表第10類「理化学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)光学機械器具(電子応用機械器具に属するものを除く)写真機械器具、映画機械器具、測定機械器具(電子応用機械器具に属するものおよび電気磁気測定器を除く)医療機械器具、これらの部品および附属品(他の類に属するものを除く)写真材料」とする登録第2442492号商標(昭和63年11月10日登録出願、平成4年8月31日設定登録。以下「本件商標」という。)の商標権者である。

原告は、平成5年2月1日、被告を被請求人として、本件商標の登録無効審判を請求した。

特許庁は、この請求を平成5年審判第1652号事件として審理した結果、平成7年3月8日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月27日、原告に送達された。

2  審決の理由の要点

(1)  本件商標の構成、指定商品、出願日及び登録日は、前項記載のとおりである。

(2)  請求人(原告)が本件商標の無効の理由として引用する登録第97799号商標(以下「引用A商標」という。)は、別紙(1)に表示したとおりの構成よりなり、(旧々々法類別)第18類「『レントゲン』管、球、電気計器、電気開閉器、電信機及其各部、其他本類ニ属スル商品一切」を指定商品として、大正7年7月31日に商標登録出願、同7年11月5日に商標権設定の登録、その後、昭和13年10月13日、昭和33年11月21日、昭和53年12月12日及び昭和63年12月21日の4回にわたり商標権存続期間の更新登録がなされたものであり、同じく、登録第97800号商標(以下「引用B商標」という。」は、別紙(2)に表示したとおりの構成よりなり、(旧々々法類別)第18類「『レントゲン』管、球、電気計器、電気開閉器、電信機及其各部、其他本類ニ属スル商品一切」を指定商品として、大正7年7月31日に商標登録出願、同年11月5日に商標権設定の登録、その後、昭和13年10月13日、昭和33年11月21日、昭和53年12月12日及び昭和63年12月21日の4回にわたり商標権存続期間の更新登録がなされたものである。

(3)  請求人(原告)は、本件商標の登録を無効とするとの審決を求め、その理由及び被請求人(被告)の答弁に対する反論を次のように述べた。

本件商標の前段部を構成する「TOKIO」の文字は、日本の首都「東京」を容易に認識、直感せしめること明らかであり、このような著名な地名は、一般に商品の産地又は販売地を表すものとして使用され、認識されている。

よって、本件商標中の「トキオ」及び「TOKIO」の文字は、商品の産地あるいは販売地を表示するにすぎないものであるから、簡易迅速を旨とする商取引の実際においては、自他商品の識別標識としての機能を有さない「トキオ」及び「TOKIO」の文字を省略し、後段部の「テック」及び「TEC」の文字より生ずる「テック」の称呼をもって、商取引に当たる場合も少なくないといえる。

また、前段部の「トキオ」及び「TOKIO」の文字が「東京」を表すのに対し、後段部の「テック」及び「TEC」の文字は、特定の意味合いを有しない造語として認識されるものであるから、本件商標は、常に一体不可分のものとして熟語的意味合いを有するとは認識されないものである。

よって、本件商標は、前段部の「トキオ」及び「TOKIO」の文字が後段部の「テック」及び「TEC」の文字と分離され、後段部の「テック」及び「TEC」の文字のみをとらえて、「テック」及び「TEC」より生ずる称呼をもって、商取引に資する場合も少なくない。

他方、引用両商標からは、「テック」の称呼が生ずるものであり、本件商標と引用両商標とは、「テック」の称呼が生ずる類似の商標である。

さらに、本件商標と引用両商標とは、その指定商品においても類似し、結局、本件商標は、商標法4条1項11号に該当し、同法46条1項1号により無効にすべきものである。

(4)  被請求人(被告)は、結論同旨の審決を求め、その理由を要旨次のように述べた。

本件商標は、「トキオテック」及び「TOKIOTEC」の文字を同書、同大、等間隔に書してなり、かつ、格別長い文字の配列でなく、上段の片仮名文字が下段の読みを特定しているので、読みやすい片仮名文字で滑らかに「トキオテック」とのみ一気に称呼され、かつ、特定の意味を有しない造語と認識されるものである。

そこで、本件商標より生ずる「トキオテック」と引用両商標より生ずる「テック」の称呼について対比するに、両称呼は、その構成音数を異にするため、称呼における語調・語感が全く異なるものとして聴取されることは明らかである。

請求人は、本件商標中の「TOKIO」の文字が、日本の首都「東京」を表し、商品の産地・販売地として普通に使用され、認識されているので、簡易迅速を旨とする商取引の実際においては、自他商品の識別標識としての機能を有しない「トキオ」及び「TOKIO」の文字を省略して「テック」及び「TEC」より生ずる称呼をもって商取引されると述べ、本件商標と引用両商標とは「テック」の称呼を共通にする類似の商標であると主張している。

しかしながら、「TOKIO」がドイツ語、イタリア語又はスペイン語で「東京」とするのは、商品との関係をみても普通でないことは明らかである。また、現在の我が国におけるローマ字のつづりは、訓令式によるとされ、「東京」を「TOKYO」と表すのが普通であり、かつ、広く一般に用いられていることは周知の事実である。

してみれば、本件商標は、請求人が主張するような「トキオ」「TOKIO」と「テック」「TEC」の各文字部分を結合したものではなく、同書、同大、同間隔の一連一体の文字よりなり、その称呼も滑らかに発音される造語と認識されるものである。

したがって、本件商標と引用両商標とは、称呼において相紛れるおそれはない。

観念については、本件商標と引用両商標とは、いずれも特定の意味を有しない造語を表示したものであるから、両者を比較することができない。

外観については、互いに判然と区別されるものである。

よって、本件商標は、商標法4条1項11号に該当しないので、同法46条1項の規定に該当しない。

(5)<1>  よって按ずるに、本件商標と引用両商標とは、その構成が上記のとおりであるから、外観において明らかな差異を有し、外観上相紛れるところはない。

<2>  そして、両者の称呼よりみるに、本件商標は、「トキオテック」の片仮名文字と「TOKIOTEC」の欧文字よりなるものであるところ、日本の首都名「東京」は、ローマ字表記「TOKYO」で表され、これが一般的に使用さ親しまれているところから、構成中の「TOKIO」の文字が、請求人説示のごとく、イタリア語等で「東京」を意味する場合があるとしても、その一理をもって分離して観察すべきものとすることはできない。

また、本件商標の「TOKIOTEC」が格別冗長であるとか、その他、本件商標を分離して観察しなければならない特段の理由を見いだし得ないばかりでなく、これより生ずる称呼「トキオテック」が一連に称呼するに何ら不自然なところはないものであること、及び、その構成が同書、同大、等間隔で表されたものであることを合わせ勘案すれば、本件商標の「TOKIOTEC」は、一連一体のものとみるのが相当である。

してみれば、本件商標からは、該文字「TOKIOTEC」の発音を表したものと自然にみられる「トキオテック」の片仮名文字に照らして、「トキオテック」の称呼のみが生ずるものというべきである。

<3>  これに対し、引用A商標は、別紙(1)に表示したとおり、紋章学上「細三ッ巴」と称される円輪郭内に「TEC」の欧文字を顕著に表してなるものであり、一方、引用B商標は、別紙(2)に表示したとおり、菱形輪郭図形内に「TEC」の欧文字を顕著に表してなるものであるから、引用両商標からは、輪郭図形を読み込む場合は格別、それぞれ顕著に表された構成文字に相応して「テーイーシー」又は「テック」の称呼が生ずるものであるというを相当とする。

<4>  そこで、本件商標から生ずる称呼と引用両商標から生ずる前記各称呼とを比較するに、引用両商標から生ずる「テーイーシー」の称呼はもとより「テック」の称呼においても、本件商標から生ずる「トキオテック」の称呼とは、構成音に明らかな差異が認められ、何ら相紛れるおそれはない。

<5>  また、観念においては、本件商標及び引用両商標は、いずれも格別の観念の生じない造語又は文字込み図形であると認められ、両者を比較すべきところがない。

<6>  してみれば、本件商標と引用両商標は、相紛れるおそれのない非類似の商標であるといわざるを得ない。

(6)  したがって、本件商標は、商標法4条1項11号に該当しないから、結局、本件商標の登録は、同法46条1項の規定によって無効とすることができない。

3  審決を取り消すべき事由

審決の理由の要点(1)ないし(4)は認める。同(5)のうち、<1>は認める。<2>のうち日本の首都名「東京」はローマ字表記「TOKYO」で表されることは認めるが、その余は争う。<3>は認める。<4>ないし<6>は争う。同(6)は争う。

審決は、本件商標から生ずる称呼等についての認定を誤り、その誤った認定の下に本件商標と引用両商標とを比較して両者は非類似であるとの誤った判断をしたものであるから、違法として取り消されるべきである。

(1)  本件商標からは、「テック」の称呼も生ずる。

(2)  すなわち、本件商標「TOKIOTEC」の前半の「TOKIO」が「東京」を意味することは、次の点から明らかである。

<1> 「TOKIO」は、ドイツ語において「東京」を、イタリア語においても「東京」を、スペイン語においても「東京」を意味する。そして、東京を「TOKIO」と表すことは、一般的であり(甲第10ないし第13号証)、「TOKIO」は、日本語化しているといってよいほど親しまれている。

<2> さらに、本件商標の指定商品は、ドイツ語を公用語とするドイツ連邦共和国が得意とする技術分野の商品であり、一般にこれらの指定商品について「TOKIO」と表示すれば一層東京を認識することは明らかである。

<3> やや図案化した商標「TOKIO」よりなる平成4年商標登録出願第106046号については、「『東京』を意味する語として理解されている『TOKIO』の文字よりなるにすぎないので、これを本願指定役務に使用しても単に役務の提供場所を表示するものと認ある。」として、商標法3条1項3号に該当するとの拒絶理由通知が発せられている(甲第14号証)。

また、やや図案化した商標「Tokio」よりなる平成4年商標登録出願第181375号について、「『東京』の意であるドイツ式つづりの『Tokio』の欧文字を普通に用いられる域を脱しない程度に書してなるものであるから、これをその指定役務に使用するときは単にその役務の提供地を表わしたものと理解させるに止まり、自他商品識別標識としての機能を有さないものと認ある。」として、同様に商標法3条1項3号に該当するとの拒絶理由通知が発せられている(甲第15号証)。

さらに、商標「TOKIO」よりなる昭和55年商標登録出願第76638号、昭和63年商標登録出願第11658号、昭和63年商標登録出願第11659号及び昭和63年商標登録出願第107731号のいずれもが、商標法3条1項により拒絶されている(甲第16号証)。

(3)  そして、「東京」のような著名な地名は、一般に商品の産地又は販売地を表すものとして普通一般に使用され、認識されているものである。

したがって、本件商標「TOKIOTEC」を使用するときは、取引者又は需要者は、本件商標を「TOKIO」と「TEC」に分離して観察し、後半の何の意味合いも示さない造語である「TEC」の部分の特徴によって自他商品を識別することがあるものであり、この部分に相応して「テック」の称呼も生ずるものというべきである。

(4)  そうすると、本件商標と引用両商標は、ともに「テック」の称呼を生ずるものであるから、称呼上類似するものであり、指定商品が同一又は類似の関係にあることも明白であるから、本件商標は、商標法4条1項11号に該当する。

第3  請求の原因に対する認否及び反論

1  請求の原因1、2は認めるが、同3は争う。審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

2  反論

(1)  本件商標は、「トキオテック」の片仮名文字と「TOKIOTEC」の欧文字を上下二段に横書きしてなるものであり、該「トキオテック」及び「TOKIOTEC」の文字は、その構成態様が同書、同大、同間隔に表示されており、該各字に相応して一連に「トキオテック」と一気に淀みなく滑らかに称呼され、特定の熟語的な語義を有しない造語商標と認識されるものである。

(2)<1>  また、本件商標を構成する文字中の「TOKIO」は、これが直ちに地理的名称の「東京」を想起せしめるほどに馴染まれていないので、この文字部分のみを分離観察して「TEC」の文字が主要部をなすものとみるのは不自然である。

<2>  我が国においては、昭和29年12月9日付け内閣告示第1号をもって、国語を書き表す場合に用いる「ローマ字のつづり方」が定あられている。それによると、訓令式第1表に掲げたつづり方とあり、地理的名称の「東京」は「T」「O」「K」「Y」「O」をもって表示することになっている。それゆえ、我が国における印刷物はもちろんのこと、あらゆる「東京」を示す表示は、「TOKYO」の文字が用いられ、「トウキョウ」の称呼を生ずる配列文字として親しまれ、かつ、馴染まれているのである。

また、英語圏における「東京」を表す表示は、辞書等により明確に「TOKYO」で示され、英語が普及している我が国で当然の表示として受け入れられている。

<3>  「TOKIO」の表示がドイツ語、イタリア語、スペイン語の「東京」を意味するとして認識されている例があるとしても、それは、古い辞書や特殊の分野におけるものであり、現在普通に用いられている用法に程遠い特殊例である。アルゼンチン、スペイン、ブラジル、フランス、スイス及びドイツ等の英語圏以外からの我が国あて郵便物における住所表示としての「東京」も、「TOKYO」と示されている。

したがって、本件商標を構成する文字中の「TOKIO」は、英語の普及している我が国にあって「東京」を意味する語として馴染まれていないので、「トキオ」の称呼を生ずる造語的な感覚で看取されるものである。

(3)  そして、昭和60年以降の商標登録出願においても、「TOKIO」及び「トキオ」が登録されている事実(乙第6号証の1、2、乙第11号証の1、2等)が存在し、また、「ときお」が、拒絶査定不服の審判手続において商標出願公告され、昭和63年9月30日に登録されている事実(乙第10号証の1、2)も存在する。

(4)  ドイツ連邦共和国が得意とする技術分野の商品を指定商品としている点も、ドイツ語を公用語としているドイツ連邦共和国に日本から商品を輸出する場合であれば、ドイツ語圏の国民には「TOKIO」が東京を示すと受け取られるとしても、そのことは、日本の取引者又は需要者の認識としては妥当しないものである。

第4  証拠関係

本件記録中の書証目録記載のとおりである。

理由

1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)のうち、(1)ないし(4)、(5)<1>(外観の点)は、当事者間に争いがない。

2  そこで、原告主張の取消事由の当否について検討する。

(1)  まず、本件商標の構成についてみるに、成立に争いがない甲第2号証の1によると、本件商標は、別紙(3)のとおり、単に「TOKIOTEC」の欧文字のみで構成されているものではなく、「トキオテック」の片仮名文字を上段に、「TOKIOTEC」の欧文字を下段にいずれも横書きしてなるものであり、「TOKIOTEC」中の各文字は、同書、同大、同間隔に表示されており、「トキオテック」中の各文字も、「TOKIOTEC」中の各文字の大きさよりはやや小さいものの、同書、同大、同間隔に表示されていることが認められる。

(2)  次に、本件商標の称呼の点から検討する。

本件商標は、前記のとおり、「トキオテック」の片仮名文字と「TOKIOTEC」の欧文字を上下二段に横書きしてなるものであり、上段の「トキオテック」は、下段の「TOKIOTEC」の読みを特定する役目を果たしていると認められるところ、「トキオテック」との称呼は、拗音を加えて5音であって、これを全体として称呼しても格別冗長なものではなく、また、一連に称呼するのに不自然なところがない。さらに、前記のとおり、その構成は、同書、同大、同間隔で表示されている。これに加え、「TOKIO」をそのままローマ字として読んだ場合の読みである「トキオ」は、日本の首都である「東京」の通常の読み方である「とうきょう」とは印象が相当異なっている。そうすると、後記のように、「TOKIO」の表記がイタリア語、スペイン語等で東京を意味する場合があるとしても、これをもって、本件商標に接する取引者又は需要者が、本件商標の前半部分の「トキオ」及び「TOKIO」を東京を意味するものと理解するものとは認あることができず、本件商標を「TOKIO」と「TEC」に分離して観察すべきものとはいえない。

したがって、「TOKIO」が東京を意味することを理由として、本件商標から「テック」との称呼も生ずると認めることはできない。

(3)  もっとも、原告は、本件商標「TOKIOTEC」の前半の「TOKIO」が日本の首都「東京」なる地名を意味することは明らかであるから、これは「TOKIO」と「TEC」の二つに分離して観察すべきであると主張する。

<1>  日本の首都「東京」が、ローマ字表記「TOKYO」で表されることは、当事者間に争いがない。また、東京の英語での表記は「TOKYO」であるところ、我が国における外国語の使用において、英語の占める割合が高いことは、当裁判所に顕著である。これらの事実からすると、「TOKYO」が東京のローマ字表記として一般的に使用され親しまれていることが認あられる。

なお、成立に争いのない乙第1号証の1ないし4及び第13号証の1ないし3によれば、昭和29年12月9日付け内閣告示第1号をもって、国語を書き表す場合に用いる「ローマ字のつづり方」が定められおり、この書き表し方によれば、東京は、「TOOKYOO」又は「Tokyo」となるが、 の点を除けば、上記「ローマ字のつづり方」によっても、東京は「Tokyo」と表記されることが認められる。

他方、成立に争いのない甲第5、第6、第18、第19及び第23号証によれば、ドイツ語における東京のつづりは、「Tokio」であることが認あられる。成立に争いのない甲第7及び第20号証によれば、イタリア語における東京のつづりは、「Tokio」であることが認められる。成立に争いのない甲第13、第21及び第22号証によれば、スペイン語における東京のつづりは、「Tokio」又は「Tokyo」であることが認められる。

また、成立に争いのない甲第10号証の1、2、第11号証及び第12号証(甲第10号証の2については原本の存在も争いがない。)並びに弁論の全趣旨によれば、沢田研二が歌う糸井重里作詞の「TOKIO」との流行歌の中で、「TOKIO」が「東京」を意味する語として使用されていること、「TOKIOでできるヨーロッパ遊学」(大栄出版 1990年12月発行)と題するガイドブックにおいて、「TOKIO」が「東京」を意味する語として使用されていること、及び、「東京色色(TOKIOエトセトラ)パレットトーク」(講談社 昭和59年3月発行)と題するイラストエッセイ集において、「TOKIO」が「東京」を意味する語として使用されていることが認められる(ただし、上記流行歌及び書籍における「TOKIO」との表現は、ヨーロッパと関連した記述等において東京を表示するために使用され、又は、ヨーロッパと関連しない場合においても、Tokyoとは違った新鮮な感じを与える目的で使用されていることが認められる。)。

しかし、我が国における外国語の使用において、英語の占める割合が高いことは、前記判示のとおりであり、英語との比較においてドイツ語、スペイン語やイタリア語の使用が少ないことも当裁判所に顕著な事実であることを併せ考えれば、上記事実のみから、「Tokio」も東京を表示するものであることが広く一般に認識されているとまで認めることはできない。

<2>  原告は、本件商標の指定商品は、ドイツ語を公用語とするドイツ連邦共和国が得意とする技術分野の商品であり、一般にこれらの指定商品について「TOKIO」と表示すれば一層東京を認識することは明らかであると主張する。確かに、本件商標の指定商品の特殊性ゆえに取引者又は需要者がドイツ語を理解する等の一定の者に限定されるとの事情があれば、「Tokio」がそれらの者によって「東京」と理解されやすいことがあり得ると考えられる。

しかし、本件商標の指定商品に専門的な機械器具も含まれていることが認められるが、このことから直ちに本件商標の指定商品の取引者又は需要者が一定の者に限られ、そのたあに、それらの者によって「Tokio」が「東京」を意味するものと理解されるとまで認めることはできず、他にこの点を認めるに足りる証拠はない。さらに、前記判示のとおり、本件商標は、単に「TOKIOTEC」の欧文字のみで構成されているものではなく、「トキオテック」の片仮名文字と「TOKIOTEC」の欧文字とを上下2段に横書きしてなるものであるが、前記甲第5、第6、第18、第19及び第23号証によれば、「Tokio」のドイツ語における発音は、「トーキオー」又は「トーキオ」であり、「トキオ」とは異なることが認あられる。そうすると、仮に、本件商標の指定商品の特殊性ゆえに本件商標に接する取引者又は需要者がドイツ語を理解する等の一定の者に限られるとしても、それらの者が本件商標の前半部分である「トキオ」及び「TOKIO」を東京の意味に理解すると認めることはできないといわなければならない。

<3>  原告は、また、「Tokio」よりなる商標登録出願が、商標法3条1項3号に該当するとの理由で拒絶されていると主張する。そして、成立に争いのない甲第14ないし第16号証によれば、原告が請求の原因3(2)<3>で主張する事実が認められる。

しかし、前記判示のとおり、「Tokio」がドイツ語等において「東京」を意味しており、それのみを見た場合に「東京」を意味するものと広く理解される面があることは否定できないが、本件商標は「TOKIO」を含むがそれのみではない構成を有するものであるから、上記商標登録出願の拒絶の事実は、本件商標中の「トキオ」及び「TOKI0」の部分が東京を意味するものと理解されるとは認められないとの上記判断を左右するものではない。

他に本件商標を分断して発音しなければならない特段の理由も見いだせない。

(4)  そうすると、本件商標からは、「トキオテック」の称呼のみが生ずるものとした審決の判断に誤りはない。

そして、引用両商標からは、「テーイーシー」又は「テック」の称呼が生ずること(審決の理由の要点(5)<3>)は、当事者間に争いがないから、本件商標から生ずる「トキオテック」の称呼とは何ら相紛れるおそれはないとの審決の判断にも、誤りはないと認められる。

(5)  観念の点から検討しても、本件商標及び引用両商標は、いずれも格別の観念の生じない造語又は文字込み図形であると認あられるから、観念の点で両者は比較すべきところがないとした審決の判断にも、誤りはないというべきである。

(6)  以上の次第であるから、審決に原告主張の違法はなく、審決は正当というべきである。

3  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)

別紙

<省略>

別紙

<省略>

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